妊娠症状

【専門家監修】妊婦検診の血液検査で重要な8項目と基準値|血圧にも注意しよう

妊婦健診で行われる血液検査の3つの種類

妊娠検査では、血液検査も併せて行われるのが一般的です。血液検査では、妊婦自身の隠れた病気や気付きにくい体質などを明らかにできます。

妊婦の身体の状況に異常や注意すべき体質が事前に明確になっていれば、事前の治療やトラブルなどに的確に対処することが可能でしょう。ここでは、妊婦検診で行われる3つの血液検査の概要や目的をご紹介します。

1:血算

妊娠中の血液検査の1つに「血算」があります。血算とは、「血球算定」の略であり、血液中にある白血球もしくは赤血球の数・量などを調べることが目的です。

妊娠初期(妊娠4~12週頃)及び後期(妊娠30週~37週頃)に行います。血液は固体の「血球」及び液体の「血漿」から成り立っているのが特徴です。

血算を行うことで、血球の種類である白血球・赤血球・血小板などの数値が確認可能です。この数値を分析することで、妊婦の「貧血」「感染」「出血傾向」などを知ることができます。

2:血糖検査

「血糖検査」も妊娠中の大切な血液検査の1つです。血糖検査は、血液中にあるブドウ糖濃度を調べることを目的としています。

血糖検査の時期は、妊娠初期(妊娠4~12週頃)及び中期(妊娠24週~28週頃)が適切です。食事などで摂取した炭水化物はブドウ糖となり、大切なエネルギー源となりますが、過剰に摂取すると体内でブドウ糖をコントロールできなくなります。

この状態が続くと妊娠糖尿病(GDM)となり、赤ちゃんに影響を及ぼす可能性もあるでしょう。したがって、血糖検査は母子の健康を守る意味でも大切な項目です。

3:ブドウ糖負荷テスト

妊娠糖尿病(GDM)は母子に多大な悪影響を与えることから、血液検査の結果によっては「ブドウ糖負荷テスト」を併せて行います。

ブドウ糖負荷テストには「50gGCT(経口ブドウ糖負荷テスト)」「75gOGTT(空腹時経口ブドウ糖負荷テスト)」の2種類があり、いずれもブドウ糖を溶かした水を飲んだ後の血糖値を調べる血液検査です。

妊娠糖尿病(GDM)は空腹時ではなく、食後の血糖値が上がるのが特徴であり、ブドウ糖負荷テストは「隠れ糖尿病」を見つけるためにも有効な方法だといえるでしょう。

妊婦検診の血液検査で重要な8項目とそれぞれの基準値

妊婦検診において血液検査が行われると、大半の産婦人科ではその結果が手渡されます。そこには様々な項目と数値が示されていますが、良い数値なのかどうかわからないといった方もいるでしょう。

主治医から説明があるとはいえ、項目の内容や基準値について知っておけば検査結果の見方も変わってくるでしょう。ここでは妊婦検診の血液検査で重要な8項目について、またその内容と基準値について解説します。

1:赤血球

赤血球の役割は肺で受け取った酸素を全身に運ぶことです。赤血球の数が基準値を下回ると、必然的に酸素を運ぶヘモグロビン濃度も低くなり、貧血を起こしやすくなります。

赤血球の基準値は妊娠初期では386~492万/㎣です。基準値は妊娠初期と後期ではやや異なり、中期で一旦下がり後期で少し持ち直します。貧血気味の妊婦は赤血球が基準値を下回っている可能性が高いため、早めに医師の診断を受けることが大切です。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

2:ヘモグロビン

ヘモグロビンとは赤血球の中に含まれるタンパク質であり、鉄分を含有しているのが特徴です。赤血球は肺で受け取った酸素を全身に運びますが、ヘモグロビンは酸素と結合する力が強いことから、その中心的な役割を担っています。

血液検査では血液1dl(デシリットル)に含有するヘモグロビンの量(g)を調べるのが通例であり、基準値は11.6~14.8g/dlです。妊娠中期から後期にかけて、やや基準値を下回るのが特徴だといえます。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

3:平均赤血球ヘモグロビン量

平均赤血球ヘモグロビン量とは、血液中の赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビンの量です。基準値は27.5~33.2pgであり、妊娠中期から後期にかけてあまり変化はありません。

妊娠中に貧血を起こしやすい人は、鉄分不足により平均赤血球ヘモグロビン量が低下している可能性があります。また、平均赤血球ヘモグロビン量が高くなる人は、ビタミンB12や葉酸の不足が挙げられることから、バランスの取れた食事を心掛けましょう。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

4:平均赤血球ヘモグロビン濃度

平均赤血球ヘモグロビン濃度とは、血液中の赤血球1個あたりのヘモグロビンの濃度です。基準値は31.7~35.3g/dlであり、妊娠中期から後期にかけてあまり変化はありません。

平均赤血球ヘモグロビン濃度が基準値を下回る原因には、血液内の赤血球に含まれるヘモグロビンの量が減少していることが挙げられます。基準値を大きく下回ると全身への酸素の運搬が不足し、息切れ・めまいなどの症状が起こりやすくなるため、注意が必要でしょう。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

5:ヘマトクリット

ヘマトクリットとは、血液全体に占める赤血球の割合のことを指します。基準値は35.1~44.4%であり、妊娠中期から後期にかけてやや基準値を下回るのが一般的です。

ヘマトクリットが高くなると「相対性多血症」「真性多血症」を引き起こし、脳梗塞や脳血栓・心筋梗塞・高血圧などのリスクが高まります。ヘマトクリットが高くなるのは水分不足・喫煙・骨髄の異常などが原因として挙げられるでしょう。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

6:平均赤血球容積

平均赤血球容積とはMCVとも呼ばれ、血液中の赤血球の大きさになります。基準値は83.6~98.2flであり、妊娠中期にはやや高くなるものの後期において基準値付近に戻るのが特徴です。

平均赤血球容積が基準値を下回る原因としては鉄分不足などが挙げられます。基準値を大きく下回ると息切れ・めまいなどの貧血症状を引き起こしやすくなるため、注意が必要でしょう。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

7:白血球数

白血球は病原体から体を守る「免疫」としての機能を持っています。基準値は3300~8600/㎣であり、妊娠中期から後期においては基準値を上回るのが特徴です。

白血球が多くなると細菌などに感染している可能性が高くなり、白血球が少なくなるとウィルス感染症の初期段階である可能性があります。また、骨髄の疾患の可能性もあるため、早期に産婦人科を受診しましょう。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

8:血小板数

血液全体に占める血小板の割合は約1%以下ですが、出血を止める大切な役割を担っています。基準値は15.8~34.8(×10⁴/μl)であり、妊娠中期から後期においては基準値を上回るのが特徴です。

血小板数が基準値を大きく上回ると血小板増多症白血球などの疾患が、大きく下回れば偽性血小板減少症になる可能性があります。いずれにしても早期に産婦人科を受診することが大切です。

出典:臨床検査の基準値一覧|愛知県がんセンター
参照:https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/14chiken/rinsyokensa/rinsyokensa20210220.pdf

9:血糖値

血糖値とは血液中に含まれるグルコースの濃度を表します。空腹時の基準値は99mg/dlであり、100~125mg/dlは保健指導判定値です。

血糖値が高止まりすると血管への負荷が大きくなり、脳や心臓などに大きなダメージを与える可能性が上がります。

出典:健診検査項目の健診判定値|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/pdf/ikk-a05.pdf

妊婦検診の血液検査でわかる3つの疾患

妊婦検診の血液検査は妊娠初期・中期・後期に行われますが、どういったリスクが発見できるのでしょうか。血液検査でわかることを理解しておくことで、リスクの回避につながります。

また、検査結果の見方もより的確になるといえるでしょう。ここでは妊婦検診の血液検査でわかることを具体的に解説します。

1:貧血

妊娠検査の血液検査でわかる疾患の中で代表的なものが貧血です。貧血は主にヘモグロビンの量でチェックしますが、方法としては血算が有効になります。

なお貧血の診断ではヘモグロビンの基準値に加え、平均赤血球ヘモグロビン量や平均赤血球ヘモグロビン濃度などから総合的に判断するのが一般的です。

妊婦に多い貧血は自覚症状がないこともあります。しかし、そのままにしておくと赤ちゃんに悪影響を及ぼすこともあるため、血液検査でしっかりとチェックしておきましょう。

2:感染症

妊娠中は、免疫力が低下することから感染症にかかりやすくなります。妊娠検査の血液検査では、感染症をチェックすることも可能です。

血液検査でチェックできる感染症には、HIVやHCV、梅毒などがあります。

妊婦が感染症にかかっていると、赤ちゃんへの感染・先天異常の原因にもなる可能性があるため、血液検査でしっかりとチェックしておくことが大切です。

3:妊娠糖尿病

妊娠中は血糖値のコントロールができなくなることもあります。妊娠糖尿病も血液検査でチェックすることが可能です。

妊娠糖尿病は自覚症状がほとんどない点が大きな特徴です。したがって、血液検査ではじめて発覚するケースも少なくありません。妊娠糖尿病は赤ちゃんに悪影響を及ぼすこともあるため、血液検査で早期発見に努めることが大切です。

妊婦健診では血圧の数値も重要

妊娠検査では血液検査だけでなく血圧測定も大切です。血圧は心臓から流れる血液の力を示すものですが、高くなり過ぎても低くなり過ぎても良くはありません。

とりわけ妊婦は血圧が変動しやすく、日頃からしっかりとチェックしておくことが重要です。ここでは妊娠検査における血圧の数値について解説します。

妊婦の血圧の基準値

妊婦の血圧の基準値は、収縮期血圧及び拡張期血圧の数値により次の3段階に分けられます。

・至適血圧:収縮期血圧120㎜Hg未満かつ拡張期血圧80㎜Hg未満
・正常血圧:収縮期血圧120~129㎜Hg未満かつ(又は)拡張期血圧80~84㎜Hg未満
・正常高値血圧:収縮期血圧130~139㎜Hg未満かつ(又は)拡張期血圧が85~89㎜Hg未満

至摘血圧は妊婦にとって最適な状態であり、正常血圧は正常な血圧です。正常高血圧は許容範囲であるものの、やや高めで妊娠高血圧症候群の予備軍であるといえるでしょう。

出典:妊娠と高血圧|国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
参考:https://www.ncchd.go.jp/index.html

妊娠高血圧症候群

妊娠中に発症する妊娠高血圧症候群は、文字どおり妊娠中に高血圧となる病気であり、母体の血管障害や臓器障害を引き起こす可能性もあります。

妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降、分娩後12週頃までの血圧が収縮期血圧140㎜Hg以上、拡張期血圧90㎜Hg以上だと診断されます。また、収縮期血圧が160㎜Hg以上又は拡張期血圧110㎜Hg以上になると重度の妊娠高血圧症候群であり、早急な治療が必要です。

出典:妊娠高血圧症候群|公益社団法人 日本産科婦人科学会
参考:https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6

妊婦健診は欠かさず受診して健康管理に努めましょう

妊婦検診の血液検査では貧血や感染症、妊婦糖尿病など、妊婦だけでなく赤ちゃんにも悪影響を及ぼす疾患を早期に発見できます。妊婦は免疫力が低下し体調を崩しやすいことから早期発見が鉄則でしょう。

血圧測定も妊婦検診には欠かせません。妊婦高血圧症候群を発症させてしまうと、母体の血液障害や臓器障害を引き起こす可能性があります。

妊婦検診は欠かさず受診して健康管理に努めるとともに、検査項目の見方を理解しておくと日々の健康管理にも役立つでしょう。